大阪の"穴場"の魅力満載!外国語学部・井上ゼミに聞く、外国人向け観光パンフ&動画の制作秘話

コロナ禍の影響でなかなか出歩くこともできない今年の夏。買い物ついでに見上げる空がとっても青くて、「コロナが落ち着いたら絶対に海外旅行に行ってやるんだ」と意気込んでいる方も多いでしょうが、それは外国人も同じはず。国内の観光地も寂しい状況で、観光客が恋しく思います。

そんな海外からの観光客に向けて、関西大学の外国語学部で学ぶ学生たちが大阪・堺と万博記念公園の楽しみ方を伝える観光パンフレット&動画をつくったという話を耳にしました。そこにはどんな「おもてなし」が込められているのでしょうか? パンフレットと動画を制作した外国語学部の井上典子教授のゼミを取材しました。

外国語学部の学生たちがつくったパンフレット&動画、そのきっかけは?

取材の前に、2020年2月に完成した3種類のパンフレットをチェック。まずは「East—古墳の魅力編」と「West—チンチン電車で巡る伝統産業都市編」の2種類からなる『Sakai Travel Guide』。こちらは、関西国際空港からほど近い堺市の観光パンフレットです。堺といえば包丁、そして世界遺産にも登録された百舌鳥・古市古墳群などが有名。そんな観光と産業の基礎知識から、名物の和スイーツに舌鼓を打てるお店まで、すべて英語で細やかに紹介されています。さらにQRコードを読み取るとYouTube動画にジャンプ! 古墳についてのショートレッスン、チンチン電車の乗り方やレンタサイクルの借り方まで解説してあり、内容の充実ぶりに目を見張ります。

もう1種類は表紙の「太陽の塔」が存在感を放つ『BAMPAKU in OSAKA』。こちらは1970年に開催された大阪万博の会場跡地に広がる万博記念公園エリアのパンフレット。内部が見学できるようになった太陽の塔をはじめ、国立民族学博物館、日本庭園といった見所が盛りだくさんの万博記念公園と、公園に隣接するショッピング&レジャー施設エキスポシティを紹介。四季を感じるフォトスポットも掲載されていて、こちらも負けず劣らず充実した内容です。

どちらもコンパクトな紙面に内容がぎっしり。関西国際空港、大阪市内をはじめとした観光案内所に配架されているそうなので、ぜひ手にとってみては?

地域のニーズと教育のニーズから生まれたパンフレット

さっそくですが井上先生、どうして外国語学部のゼミが観光パンフレットを?

「私の前任校は北海道小樽の大学だったんですが、小樽は外国人観光客が多いものの、観光地の英語対応が遅れていました。そこで、市役所の観光振興室と連携して学生と一緒に外国人向けの観光パンフレットをつくりはじめたんです。これが学生たちにとっても総合的な力を身につけることができるとてもいい取り組みだったので、関西大学でもぜひやりたいと大学の地域連携センターに相談し、堺市を紹介してもらいました」

今回はZoomを使ったオンライン取材。井上先生は、ステキな笑顔で対応してくれた。

世界遺産の「百舌鳥・古市古墳群」をはじめ魅力的な観光資源を有する堺市ですが、外国人観光客の多くは関西国際空港から大阪市内に直行するため、その途中にある堺市は素通りされてしまいがち。この状況を変えたいという堺市と、教育の一環として観光パンフレットをつくりたいという井上先生のニーズが見事にマッチし、2018年の秋からプロジェクトがスタートしました。

海外から来た観光客のニーズを把握するアンケート調査にはじまり、取材、執筆、翻訳、編集、そして動画の撮影と、すべての作業を学生たちが担当。1年以上をかけてようやく完成した力作が、冒頭で紹介した堺市の観光パンフレットなのだそうです。

世界の国からこんにちは。万博記念公園の魅力を伝える

堺市のパンフレットをつくったのは、当時4年次生で今春に卒業したゼミ生たち。そんな先輩たちの背中を見ていた当時の3年次生に、万博記念公園からパンフレット制作のオファーが舞い込みます。先輩たちがアンケート調査のために万博記念公園の場所を借りたことがきっかけで、「うちのパンフレットも是非」と公園側から声がかかったのだそう。

「井上ゼミでは3年次は英語詩に取り組み、4年次に堺の観光パンフレットを制作することになっていました。だけど、昨年7月に万博側から観光パンフレットの話が急遽持ち上がったんです。4年生の先輩方はすでに堺の観光パンフレットを手掛けていたので、完成目標とされた2020年の年明け目指して、3年次生が夏休みを返上して大急ぎで取り掛かることになりました」

万博チームをまとめ上げたプロジェクトリーダーの北山尚樹さん。「先輩方に手伝ってもらうという選択肢もありましたが、せっかくのチャンスだったので自分たち3年生だけで頑張ってみることにしました」・・朝の取材でしたが、起きてる?

今回は、万博記念公園の運営会社が事前に行ったアンケート結果をもとに内容を練ることに。予想外だったのは、多くの外国人観光客がエキスポシティでのショッピングを目的に訪れていて、太陽の塔や日本庭園、国立民族学博物館のある万博記念公園の存在があまり知られていなかったこと。50年前の大阪万博の時は世界で一番活気のある場所だったのに、これはちょっと意外な結果です。

一方で、万博記念公園を訪れる外国人観光客はアジアからのリピーターが多く、定番スポットばかりではなく穴場スポットの情報に需要があることもわかったのだとか。「まだ知られていないスポットの魅力を伝えたい」と方向性が定まると、にわかに士気も上がります。

自分たちの足で取材し、各スポットの魅力を体験しながらパンフレットの原稿をつくりました。なかでも苦労したのは翻訳作業。「日本語で書いた原稿を英語に翻訳するのですが、文章の順序を変えたり、イギリス英語の表現に統一したり、ネイティブの方に伝わりやすいように注意を払いました。比喩表現はそのまま使えないので、言い換えるのが特に難しかったですね」とパンフレット班リーダーの藤川さん。

プロジェクト副リーダーで、パンフレット班リーダーの藤川聖菜さん。

紙面のデザインももちろん学生たちで考えます。パンフレットが設置される大阪市内観光案内所に足を運んで、どんな表紙が目を引くかリサーチ。印刷会社とやり取りをしながら何度も何度もやり直して、ようやくたどり着いた最終案の下書きを印刷会社のデザイナーさんに渡すと、「これはいいね」と太鼓判をもらえたのだそう。苦労が多かった分、達成感もひとしおだったのではないでしょうか。

メンバー全員で案を出し合ったパンフレットのデザイン。

パンフレットに収まりきらない魅力は動画で伝えます。「公園の指定管理事業者から最初にいただいたお話では、太陽の塔にフィーチャーしてほしいということだったんです。だけど実際に現地調査してみると、公園内のどのスポットも魅力的でした。結局、太陽の塔をはじめ国立民族学博物館、日本庭園といった公園全体を紹介するショートムービーを提案して、それが採用されました」と語るのは動画班リーダーの山本さん。

プロジェクト副リーダーで、動画班リーダーの山本海夕さん。

自分たちで撮影したストップモーションの映像をベースに、ここぞという場面ではプロのカメラマンに動画撮影を依頼。「ストップモーションにしたのは、学生らしいポップさが出せると思ったからです。わざわざ私たちに依頼してくださったので、学生ならではのものにしようと。撮影のために、下見も含めて10回以上は公園を訪問しました」

ストーリーは、万博記念公園を訪れたカップルがはぐれてしまって、それぞれが色々なスポットを巡りながら最後に再会するというもの。しかし……「指定管理業者さんからOKをいただいて制作を進めていたのですが、撮影がようやく終わった時に、まさかのNGが出てしまったんです。『公園内ではぐれるというのはいかがなものか』ということで……」えーっ、それはショック……。「撮影予算も限りがあり、紅葉のシーンなど時期的に撮り直しがきかないところもあったので、焦りましたね」

結局ストーリーを練り直し、一部のシーンを再撮影。そろった素材を印刷会社で編集してもらい、紆余曲折を経て完成!

近日中に公開されるというムービーを一足先に見せていただきました。茶室や錦鯉、見事な紅葉といった日本的な風情とともにアバンギャルドでワールドワイドな万博記念公園のさまざまな顔が表現されていて、大阪在住の筆者も「こんな場所もあったのか」とびっくり。海外の方の反応が気になります。

ムービーが公開されたらこの記事にもアップさせていただくので、読者のみなさんはもう少しだけお待ちくださいね。

地域に貢献しながら、おもてなしの心を学ぶ

今回お話をうかがった学生の皆さんは、現在4年生となり堺市の新たな観光パンフレットと動画の制作に取り組んでいます。今年のパンフレットではこれまで深められなかった内容に挑戦するとのことで、とても楽しみ! オンライン上での情報発信をより充実させるためにYouTubeチャンネルとFacebookも開設したので、こちらも必見です。

海外の方に日本の魅力を伝えるには、いろんな言語の案内表示を設置したり、流暢な外国語でガイドしたりすることももちろん大切です。だけどその前提にあるのは、私たち受け入れる側がまっさらな気持ちで土地の魅力を再発見し、海外の方たちの見たい!知りたい!の声に耳を傾けること。これこそ「おもてなし」の心なのかもしれませんね。井上ゼミの「おもてなし」に、今後も注目です!

関西大学 外国語学部 外国語学科
井上典子 教授

博士(英文学)。英国ブリストル大学の研究員や通訳・翻訳業を経験したのち、小樽商科大学を経て2018年より現職。専門分野は英詩で、14世紀頃に書かれた頭韻詩の韻律と詩の意味の関わりを研究している。教育面では英語を通じた地域貢献教育プロジェクトを積極的に展開してきた。

ライター紹介

谷脇 栗太

ほとんど0円大学編集部

印刷・出版業界を経て、現在は「ほとんど0円大学」で大学や学問のおもしろを記事にしてお届けしています。出身は文系ですが、ロマンあふれる自然科学や最先端のテクノロジーにも興味津々。世界の見え方が変わるような刺激的な出会いを求めて日々さまよっています。

ほとんど0円大学 http://hotozero.com/