全13学部の教員がSDGsを語る! 奥和義先生に聞く、前代未聞の授業ができるまで

最近いろいろなところで耳にする「SDGs」。環境問題や格差問題、エネルギー問題に食料問題などさまざまな社会問題にグローバルに対処するために、国連で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと……ということはもう皆さんご存知でしょう。ですが、SDGsといえば企業や自治体が取り組むもので、自分にはあまり関係ないと思っている方も多いのでは? 実は、筆者もその一人でした。

その一方で、関西大学では文系理系を問わず全13学部の先生がリレー形式で講義を担当し、学生なら誰もが受講できるSDGs授業が始まったとか。この授業の立役者で、2020年9月まで副学長として関西大学のSDGs推進の旗振り役を務めてこられた奥和義先生(政策創造学部)によると、SDGsは一人ひとりが社会とのつながりを考えるのに最適な題材なのだそう。関係ないでは済まされない、SDGsのお話をお聞きしました。

関西大学でSDGsの旗を打ち立てる

奥先生がコーディネートする授業『SDGs入門・実践』は春学期の「入門編」と秋学期の「実践編」で構成されている学部横断型科目。取材を行った9月初旬は、オンラインで開講された前期授業が終わり、後期に向けて準備を進められているタイミングでした。

奥先生、そもそも全学部対象のSDGsの授業をしようと思われたのはなぜなんでしょうか?

「私の専門は国際経済論で、貧しい国をどのように発展させればいいのかということも研究テーマのひとつです。経済成長の難しいところは、環境問題が必ずついて回る点です。日本でも、私が子供の頃は高度経済成長期で光化学スモッグをはじめとする公害が大きな社会問題になっていました。工場を海外に移すことで国内の公害は減ったものの、それは『公害の輸出』でもありました。こうした環境破壊、経済格差、健康や福祉、すべての問題はグローバルにつながっています。

21世紀に入っていよいよ深刻化してきた諸問題に対して、国連が動き出しました。そうして地球全体の持続可能な開発のあり方を考えようということで、2015年に採択されたのがSDGsでした。私もそういった世界の動きを見ていて、SDGsを授業に取り入れられないかと考えるようになったのです」

気さくにお話を聞かせてくださった奥先生。胸には17色のSDGsのピンバッヂが光る。「先生、そのピンバッヂかわいいですね」と声をかけられることも多いのだとか

SDGsという言葉は新しいですが、中身は私たちが20世紀から積み上げてきた問題なんですね。国連が発信したということもあり、企業や自治体を中心に社会全体の関心も高まってきましたね。

「私は社会連携担当副学長でもあり、そうした関心の高まりも身近に感じていて、職業体験などを通じて社会貢献に高い意識を持っている高校生が多いという話も耳にしました。翻って大学に目を向けると、関西大学にもSDGsにつながる社会問題を扱う先生はいるのですが、各学部で個々に研究されている状態だったんです。全学部でこうした社会問題に関する研究・教育を統合することができれば関西大学の大きな強みになる。そう考えてSDGsに力を入れてみませんかと学長に提案したところ、ぜひやろうということになりました。それで2018年の冬にワーキンググループ『KANDAI for SDGs推進プロジェクト』が発足しました」

全学部で共通のテーマに取り組むということがキーになるわけですね。具体的な動きとしては、どんなものがありましたか?

「最初に学生・教職員の皆さんにSDGsに関するアンケートをとったところ、SDGsを知らない、あるいは言葉を聞いたことがあるが意味はわからないという人が全体の3分の2を占めていました。それでまずは知ってもらおうということで、2019年6月に開催したのが『関西大学SDGsフォーラム』です。外部から講師を招いてSDGsとは何かをわかりやすくお話しいただき、教員、学生だけではなく、一般の方も交えて一緒に考える機会をつくりました。

大学全体でひとつの方向性を示すために、SDGsに関する行動指針もつくりました。関西大学には『権力から正義を守れ』という建学の精神と『学の実化(じつげ)』という学是があります。わかりやすく言うと前者は社会正義の精神、後者は学問を実社会に還元していこうということですね。関西大学には、SDGsを推進する上で、ぴったりな理念がもともとあったんです。これらの理念を行動指針の軸にしました。

この指針をもとにその後の展開を計画する中で、ワーキンググループのメンバーから『取り組みのゴールはやはり、学生に何を伝えるかではないですか』という声をいただき、SDGsを授業科目にすることになったんです」

そこから『SDGs入門・実践』が生まれたわけですね。

関西大学ではSDGs推進にあたり、平和で平等な世界を実現できる人材の育成と、SDGsに資する研究や社会貢献を掲げている。学生有志によるボランティアなどの主体的な活動がさらにその輪を広げる

全学部の先生がSDGsを語る! 関大ならではの講義

それでは、『SDGs入門・実践』はどんな授業なのですか?

「多くの学生に受講してもらえるように、関西大学の学生なら学部を超えて、誰でも受講できる学部横断型科目としました。春学期の入門編では本学の全13学部から一人ずつ先生方に登壇していただいて、それぞれの専門分野の視点でSDGsについて講義していただきました。初回のイントロダクションと最終回のまとめは私が受け持って、ちょうど15回の講義になります。SDGsを授業で扱っている大学は他にもありますが、全学部というのは関西大学だけではないでしょうか」

総合大学ならではの贅沢な講義ですね。それぞれの学部はSDGsとどう繋がるんでしょうか?

「例えば文学部の品川哲彦先生は、倫理学の視点から講義されました。SDGsには17のゴールがありますが、実は互いに矛盾するような点もあります。経済成長と環境保全、経済成長と格差是正は、これまでのやり方では両立するのは難しいですよね。でもそうした矛盾を克服しないと、ほんとうの意味で人間にとってよい生活にはならないのではないかということを根源的に問いかけているのがSDGsなのだと熱く語っていただきました。他の先生方も、それぞれの専門分野を活かしながら、とても楽しそうに話しておられたのが印象的でしたね」

それはまた思いもよらない切り口ですね。かなり視野が広がりそうです。全学部というところにこだわられたのは何故ですか?

「ご存知の通りSDGsが扱う問題は幅広いので、関係のない学部はありません。逆に言えば、誰もが社会とつながっている当事者なのだということを伝えるのにSDGsという題材はもってこいなのですよ。SDGsの視点に立てば、自分がどうやってお金を稼いで、何に使うのかという選択も社会問題につながっていることがわかります。自分自身と他者との関わりを見つめ直す機会になるのです」

なるほど! SDGsをきっかけにして社会と自分を再発見するという視点はとてもしっくりきました。SDGsの掲げる「誰一人取り残さない」という理念とも重なるところがありますね。

「入門編」の講義はオンライン会議サービスZoomを使って行われた。国連のウェブサイトを画面共有しながらSDGsについて解説する奥先生と、熱心に聴講する学生たち

入門編のたしかな手応え、秋からは実践編へ

多くの学生に参加してもらうことが大切とおっしゃっていましたが、その点では何か工夫はされたのですか?

「多くの学生に受講してほしかったので、『入門編』は語学などの必修科目ともあまり重ならない金曜4限に設定しました。狙い通り、各学部・学年から合わせて約260人もの学生が受講となりました」

そんなねらいがあったとは! しかし、やはりSDGsに興味がある学生がそれだけ多かったということでしょうね。「入門編」の授業を終えて、学生の反応はいかがでしたか?

「授業後に、すごく熱心な質問が多かったのが印象的でした。対面だとわざわざ授業の後に教壇まで来て質問することを躊躇してしまう学生もいますが、そこはオンラインの距離感がうまく働いたようですね。提出されたレポートでも、学生自身の言葉で熱心にまとめられたものは読むと胸が熱くなりました。1年生から4年生まで学部も理解レベルも違う学生が参加する中で、それぞれの先生方が理解しやすく話してくださったことも大きかったですね」

秋学期からは「実践編」の授業始まりますね。

「より積極的に参加してくれる精鋭の学生たちの受講を期待しています。実践編では企業や自治体で実際にSDGsに取り組んでいらっしゃる方々をお招きしてお話をお聞きするとともに、学生にもそれぞれSDGsの実践について考えてもらう実習形式を予定しています。対面授業とオンライン講義を組み合わせた形になりますが、コロナ対策と両立しながらどこまでのことができるのかを、状況を注視しながら検討中です」

学部を超えたつながりが、いつか実を結ぶ

最後に、『SDGs入門・実践』の授業を通して奥先生がめざすものをお聞かせいただけますか?

「授業を受けた学生の中から今後のSDGsを担ってくれる人が出てきてほしいと願っています。コロナの影響がなければ、春学期のうちから熱心な学生をスカウトしてSDGs推進メンバーとして一緒に取り組みたいと考えていたのですが、横のつながりができない今の状況ではそこまでフォローできなかったのが心残りですね。それでも秋学期の授業以降、学生たちの間で学部の垣根を超えたつながりが根付き、それぞれの学生が学部の勉強や課外活動でSDGsの視点を活かしてくれれば、今すぐには無理でも、数年後にはきっと花が咲いて実を結ぶかもしれないと期待しています。

私は9月末で副学長職が任期満了になりましたので、SDGsの授業の取りまとめも後任の方に引き継ぐのですが、各学部が協力しながら授業自体もサスティナブルに続いていくといいなと思いますね」

SDGsをどう捉えるのかは人それぞれですが、ひとつの合言葉のもとで視野を広げ、緩やかにつながることはできるはず。みんなでより良い未来を迎えるために、大人も怠けてはいられませんよ。

関西大学政策 創造学部 政策学科
奥和義 教授

大阪生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程を途中退学。博士(学術)。1998年より関西大学に着任、2016年10月より2020年9月まで副学長。研究テーマは国際経済学、日本貿易論。

ライター紹介

谷脇 栗太

ほとんど0円大学編集部

印刷・出版業界を経て、現在は「ほとんど0円大学」で大学や学問のおもしろを記事にしてお届けしています。出身は文系ですが、ロマンあふれる自然科学や最先端のテクノロジーにも興味津々。世界の見え方が変わるような刺激的な出会いを求めて日々さまよっています。

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