自己満足 vs モテたい。社会学の視点で美容整形を考える

近ごろ、インスタグラムなどのSNSを見ていると、整形をキーワードにしたハッシュタグがずらり。中には広告もありますが「美容整形した人やそのことをオープンにしてる人ってこんなに多いの?!」と驚いた私です。

そこで今回、社会学の見地から美容整形を研究している、総合情報学部の谷本奈穂教授を取材。美容には縁のない「ほとんど0円大学」の男性編集長にも同席いただき、現代の美容整形事情から垣間見える社会や人々の意識の変化について聞いてみました!

SNSが美容整形をより身近に

SNSで美容整形への興味や美容整形したことをオープンにしてる女性が、多くなったように感じています。昔は美容整形ってこっそりするものだった気がするのですが、なぜなんでしょう、谷本先生?

「そうですね。数年前からの傾向だと思うのですが、SNSで美容整形経験をオープンに語る人が増えてきましたね。一昔前と違い、タブー感が薄れているのを感じています」

谷本先生が美容整形について研究を始めた2003年頃は、まず調査に協力してくれる美容整形体験者を探すのが大変だったそう。

「それが段々と意識が変わってきて、美容整形がとても身近なものになってきました。特にSNSが普及した2010年代からその傾向はさらに進んだように思います」

谷本先生は2018年にコンピュータを用いたテキストマイニングという手法で、Twitterの投稿を分析。美容整形に特化した内容で、かつ「いいね!」が多い投稿を調べると、記事の中に最も多く出てくる言葉の一つが「つながる」だったそうです。

「『つながりたい』というのはSNSの特徴ではあるんですが、分析結果から、美容整形を通じてコミュニケーションを取りたいという傾向が見えてきたのは面白かったですね」

美容整形がSNSでつながるための、共通の話題になっているんですね。この「美容整形をテーマにSNSでつながりたい人が増えている」という現象の背景を考えるうえで、谷本先生による興味深い調査結果があるので見てみましょう。美容整形をするうえで、誰からのアドバイスを参考にしているかというデータです。

女性は特に、専門家よりも同性の家族(母、姉妹、娘)や友達のアドバイスが有効という結果(2013年)

「女性に顕著なのですが、同性とのやりとりが美容整形に踏み出すきっかけとして大きいのです」

父親や兄弟と比べて母親や姉妹の影響力が強いのが、データからも明らかですね。確かに同性同士の方が、美容整形を話題にしやすいのかもしれません。

谷本先生のお話に深くうなずいていると、編集長が「男性は特に、恋人や配偶者のアドバイスを参考にしているんですね」と投げかけました。

「男性はそうなんですが…。これはショックなデータかもしれませんが、美容整形をされた女性にアンケート調査すると、恋人や夫の意見は聞くのですが、反対されても意見は変えないという人も多いという結果が出ています。インタビューしても『夫の意見はどうでもいいんですよ』などとおっしゃる方もいました(笑)」

なるほど。美容整形体験がSNSの「いいね!」で広がっていく背景には、こうした「つながり」が影響していたんですね。

「そうですね。SNSはそれを可視化したといえますね」

ソーシャルディスタンスを保っての取材でしたが、先生の話に「あるある!」とうなずくうちに、心の距離がどんどん縮まっていきました

美容整形の動機は、男と女で違うらしい

谷本先生のお話から、現代の女性は美容整形について、予想以上に抵抗感を感じていないことを知った私たち。でも先生、女性が美容整形をする理由って、やはり男性にモテたいという動機も大きいと思います。なのに恋人や夫の意見をあまり聞かないというのは、少し違和感をおぼえるのですが…?

「実は美容整形をしたい理由を調査したところ、女性の回答で一番多かったのが『自己満足のため』だったんですよ。一方で『異性や同性にバカにされたくない』という回答は少なく、『異性に好かれたい』という回答もさほどではない。つまり女性にとって美容整形の一番の動機は、他者との競争に勝つとかではなく、自己満足なんだという結果が出たのです」

これまで同様の調査を2回にわたって実施し、ほぼ同じ結果が出たそうです(2005年・上位8位を抜粋)

自身のために女性は美容整形をする…。思い当たらないわけではない。でも「モテるファッション」などの言葉に踊らされてきた我が身を振り返ると「とはいえ、やっぱり男性を意識しているのでは?」と思ってしまいます。

「そうですよね。私もお気持ちはわかります。特に男性にこの話をすると『そうは言っても、モテたいからでしょう!』と言われることが多いです。『いやそれは男性の感覚で』と言っても信じてもらえないようですね」

あ、編集長もうなずいています。男性は「女性の目」が重要なんですね。

「男性の回答を比較すると違いがよくわかります。『自己満足のため』という回答は、男女ともに高いのですが、『異性に好かれたいから』という回答は、男性が圧倒的に多い(女性18%に対し、男性は36.8%)という結果が出ています」

ふむふむ、女性も男性を気にしないわけではないけれど低いですね。女性の家族や友達に認められればそれで満足、ということなんでしょうか。

でも、自己満足だと回答していても「承認欲求」はあるんじゃないでしょうか? SNSであんなに整形に関わる投稿が多いのは「いいね!」が欲しいからだと思うのですが。

「おっしゃる通り、自己満足と承認欲求は分かちがたく結びついていると思います。ただ『誰に承認されたいのか』というところに男女差が現れます。男性だと主に女性になってくるのですが、女性はその限りでなない。自分であったり、女性からの『可愛くなったね』という承認まで、広く求める傾向にありますね」

「盛った私が本当の私」という不思議な感覚

美容整形から社会の変化を研究してきた谷本先生。その中で興味深いと思うことの一つが、女性のアイデンティティのあり方の変化なのだとか。

「今後調査しようと思っている分野なので、データの裏付けはこれからですが、主に女性が言う『自分らしさ』の定義が変わってきています。特に2010年以降に変化が顕著だと感じていて、『ちょっとバージョンアップした自分』…今風に言うと『盛った自分』が自分らしい状態だという感覚を、多くの女性が持っているようです」

なんと、また気になる話が出てきました!

「例えば美容雑誌の記事を分析していると、エイジングケアの施術や化粧品を使って明らかに若返ったり綺麗になっていても、バージョンアップ後の自分を『本来の私に戻る』という表現で受け止めているんですね。たとえ明記はしていなくても、そう意識させる文脈になっているのが興味深いところです」

なるほど確かに「肌本来の~」といった表現は、美容系の広告でよく目にする言葉です。

少し前はプリクラ、現在はスマホのカメラアプリを使えば画像上で簡単に自分を盛れてしまうのも、そうした感覚を増長させているのでしょうか?

スマホに映る自分が本当の私…?(写真はイメージ)

「そこはまだデータを取れていないので断言はできませんが、可能性はありますね。バージョンアップした自分を本来の自分だと感じるというのは、不思議な社会現象で面白く、ここも調査したら男女差が見えてくるかもしれません。…男性はあまりそういう感覚ってないですよね?」

谷本先生の問いかけに「そうですね、僕は、ないですね」と答える編集長。彼によれば男性は、例え筋トレで体を鍛えたとしても、『筋トレした後の俺が元々の俺だ』みたいな感覚にはならないとのこと。男性の方、いかがでしょうか?

女性の意識を変えたのはバブル世代かもしれない

「私は美容整形以外にも、女性雑誌などにある恋愛記事の分析もしました。そこから感じているのが、1986年から1991年にかけてのバブル景気を経験したいわゆる『バブル世代』から、女性の意識が大きく変化しているということです。裏付けデータがないので、研究を通じて感じてきた感想としか言えませんが」

バブル世代といえば、現在はだいたい50代の方たちですね。1986年に男女雇用機会均等法が施行されたこともあって、女性が一気に社会進出しました。女性が自分のために使えるお金を稼げるようになった、最初の世代とも言えますね。

「バブル世代の女性は、流行のファッションや美容を謳歌してきた人たちです。また全員ではありませんが、年齢を重ねても美を追求し続けることを肯定する感覚を持っているように感じます」

スキンケアへの関心は、より高く(写真はイメージ)

「化粧品がエイジングケアを明確に打ち出したのも、バブル世代が消費の主役となってからです。同時に1990年代から2000年代にかけては、美容医療の技術が発達し、メスを使わず、レーザーや注射で施術する『プチ整形』が一般化し、よりハードルが低くなりました。また中高年向けの女性ファッション誌も、相次いで創刊されています。それらが一つの流れになって、現在の『盛った私が本当の私』というところまで、来ているのではと予測しています」

以前の日本では、美容整形に倫理的な背徳感があったり、施術を受けたとしても他に晒さないことが一般的でした。でも、バブル世代を境に流れが変わっていったんですね。

「個人的にはそう考えています。バブル期の好景気や美容医療技術・化粧品の進歩。また雑誌や広告などメディアのマーケティング表現からの影響。そうしたさまざまな要因があいまって、女性のアイデンティティのあり方が、少しずつ変容していったのではないかと」

その結果として、美容整形をする人や、それをオープンにする人が増えていったんですね。

「近頃は男性で美容整形をする人も増えていますよね。これもおそらく、女性のアイデンティティの変化を受けてのことではないかと考えています。今後美容整形は、よりカジュアルに普及していくでしょうし、また性別を超えたジェンダーレス化も進んでいくと考えられます」

テレビやSNSを見ていても、そんな予感がひしひしと感じますね。

最後に先生、今後注目していきたいことはなんでしょう?

「今、気になっている事が二つあります。

まず急速に私たちの生活に普及したSNSの影響、ここは本腰を入れて調査したいと考えています。SNSの普及により美容整形へのハードルが低くなり、性別の境界があいまいになる傾向は、今後ますます進むと考えられます。また日本では、これまで化粧品やファッションのモデルといえば欧米人でしたが、SNSを見ていると、K‐POPアイドルが見本となっているのも興味深いです」

韓国といえば美容整形が盛んですね! 私の美容師さんも「妹が友達と一緒に韓国で美容整形してきた」という話をしていました。

美容整形の盛んな韓国には、見た目も可愛いいコスメも多い(写真はイメージ)

「韓国は美容整形ツーリズムが盛んですからね。このムーブメントは研究者として、見逃せないところです」

谷本先生によれば、日本美容外科学会が日本美容皮膚科学会と協力して、2017年度の施術数を調査したところ、少なく見積もっても200万件近くの施術数が確認されたとか。しかし先生は、調査対象としていないクリニックのデータや、海外で美容整形をしている人も含めると、もっと数は多くなるのではと指摘します。

「そしてもう一つが『地域差』です。美容整形外科医が、関東と関西のクリニックで働いた経験を語ったインタビューがありまして。それによれば、関東の人はクリニックに一人で来て一人で帰るけれど、関西の人は『一人では怖いから一緒に来てもらってん!』と、友達二人で来ることがあるとか。個別カウンセリングに友達も一緒に入室して、さらに施術の後に一緒にランチして帰る…というケースもあるそうです。そんな地域差を比較してみても、面白いのではと考えています」

その研究は興味深いですね。先生、研究成果をお待ちしています!

関西大学 総合情報学部 総合情報学科
谷本奈穂 教授

大阪大学人間科学部卒業、同大学院修了。博士(人間科学)。2002年より関西大学に赴任。ポピュラーカルチャーのなかでも女性漫画や恋愛記事、化粧品広告など、学問の世界では見過ごされてきた女性の影響からの社会の変化を研究。2003年からは美容整形をテーマのひとつとして研究している。著書に『美容整形と化粧の社会学』(新曜社)、『恋愛の社会学』(青弓社)、『美容整形というコミュニケーション――社会規範と自己満足を超えて』(花伝社)などがある。

ライター紹介

蔵 麻子

企画編集/ライター

大阪在住の企画編集ライター。世界遺産や絶景を訪ねる旅と美味しいものが好き。取材ついでの寄り道を楽しむ日々。